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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

武田麟太郎 「日本三文オペラ」

「日本三文オペラ」というタイトルの小説は開高健も書いていますからお間違えなく。ここでは武田麟太郎のほうを取り上げます。武田麟太郎は「文藝春秋」に「暴力」という作品を発表して、プロレタリア作家として堂々と登場しましたが、徹底的な弾圧の前に屈して転向した後は作風ががらりと変わります。一般に「市井事もの」と言われていますが、この作品もそのなかに入ります。ごく普通の庶民の暮らしをリアルに描き、その中にささやかなドラマが展開するという作風で、ユーモアにあふれ、様々なタイプの登場人物もみんなどこか憎めない、全体に微笑ましい印象を受けるものが多いです。この作品のストーリーは、傾いているくらいおんぼろな下宿を舞台に、その各部屋に住む様々な種類の人間のそれぞれのドラマを短く描いてコラージュ的に構成したものです。完全なコメディではなくどこか悲しみも潜んでおり、一種独特の雰囲気があります。これが武田麟太郎の確立した世界です。作家は自分だけの作品世界を築かないとだめです。そういう意味でいうとプロレタリア作家から実に見事にスイッチしたなと思います。武田麟太郎の作品を読んでいると思い出すのは織田作之助です。どちらも庶民の暮らしの中に本当の人間の営みを見て、そこから悲喜こもごもの人生の風景を表現しようとしています。武田麟太郎が死んだ時に織田作之助が「武田麟太郎追悼」という作品を残していますが、これを読むといかにお互いを評価しあっていたかがよくわかります。織田作之助にとって武田麟太郎は同じ大阪の出身で、学校も同じ京都の第三高等学校の先輩になります。そして織田作之助の「夫婦善哉」を非常に高く評価して、文壇に名を知らしめるきっかけを作った大の恩人でもあります。また、織田作之助も恩師武田麟太郎を宇野浩二や川端康成の後に来る作家として高く評価し、敬愛していました。作家の究めようとする道はその作風によって様々な方角に分れますが、自分の行こうとする道と同じ道を行く先輩や後輩というのはやはり非常に親近感を覚えるもののようです。この作品と合わせて織田作之助の「夫婦善哉」も読んでみて下さい。二人の進んだ道がわかると思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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