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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

伊藤永之介 「鶯」

この人もプロレタリア文学の作家に分類されます。プロレタリア文学の作家は大きく分けて二つの派に分かれます。その発行していた文芸誌の名前で分けるなら、「戦旗」派と「文芸戦線」派です。「戦旗」のほうには小林多喜二を筆頭に徳永直、宮本百合子、中野重治などなど、大物がズラリ揃っているのでどうしてもそっちばかり注目されて、ちょっとマイナーな「文芸戦線」派の作家は見落とされがちです。伊藤永之介はその「文芸戦線」派の中の一人です。ではこの作品も労働者の魂の叫びを痛々しいほどに表現した、よくある気合の入ったプロレタリア文学なのかと思われそうですがそうではありません。「文芸戦線」は勢いのある「戦旗」にプロレタリア文学の流れを持って行かれた上に内輪もめもあったりして、太平洋戦争もまだ始まっていない1934年に廃刊になります。伊藤永之介がその本当の持ち味を発揮し始めるのはその後のことになります。のどかな田舎に暮らす人々のユーモラスな交わりをほのぼのと描いた作品で、独自の存在感を持つようになります。どういう雰囲気なのかは、同名の作品の映画化である「警察日記」(1955年森繁久弥主演)を観ればよくわかります。本当によく伊藤永之介の描く世界を表現できていると思います。作品の名前が「梟」とか「鶯」とか、鳥の名前のものがいくつかあるのでそれらはまとめて「鳥類もの」と呼ばれていますが、中でもえしぇ蔵のお気に入りはこの「鶯」です。これも舞台は農村で、ある警察署を舞台にしてそこに相談に来る人や、連行される犯罪者、応対する警官のやりとりが、警察署にありがちな冷たい緊張感をもったものではなく、温かみのある人情的なものとして描かれていることが特徴です。読んでいて非常に心地いいものがあります。それぞれの人生を抱えて警察署に来た村の人々が、実はどこかでつながりがあって、その偶然性がストーリーを面白くしています。プロレタリア文学を読む時のような一種の気合のようなものは全く必要ありません。ふと気付けば優しさを探している自分を感じた時などに、心をあたためてくれるような優しい小説です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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