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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

広津和郎 「あの時代」

広津和郎は硯友社の小説家広津柳浪の息子でいわばサラブレッドです。中学の頃からあちこちに投稿して賞を貰うこともありました。生まれながらにして文学者としての運命を背負っていたと言えるかもしれません。やがて文壇において谷崎精二、葛西善蔵、宇野浩二、芥川龍之介などとの交友が始まります。この作品は宇野浩二と芥川龍之介との交流を思い出風に記録した作品です。宇野浩二は一時、精神的に病みます。今でいう躁鬱病のようなものでしょうか?家族が心配して病院にいれるべきかどうかを友人の広津和郎に相談します。彼は健気にも精神的に不安定になった宇野浩二の面倒を見ます。出版社に用事があるからと一緒に行くといきなりそこでアイスクリームやハムエッグを注文したりする宇野浩二なので、その対処に終始ふりまわされます。病院に入れるべきだと判断した広津和郎は宇野浩二を斉藤茂吉の病院に連れて行きます。そんなこんなでいろいろと面倒見てる時に、同じように宇野浩二のことが心配になった芥川龍之介が登場します。二人して宇野浩二のことを案じていたこの頃、実は芥川龍之介の中では自殺へ向かう心境の準備が始められていました。そしてまもなく文壇を震撼させたあの自殺です。精神を病んだ友人の心配で心休まる時もなかったのに、今度は別の友人の自殺です。広津和郎の混乱した心境が想像できます。文章を読んでいると広津和郎の友情に忠実な人柄と無心な優しさを感じます。つまりこの作品は宇野浩二の発病、芥川龍之介の自殺を通して文字通り「あの時代」の自分とその周辺の動揺と不安感を描いていると言えます。どこか暗鬱とした寂しい空気が作品全体に漲っています。言うなれば「あの時代」の世間全体の不安感というものもそこから感じ取れるような気がします。ところで芥川龍之介の自殺に関する部分ですが、身近にいた彼がここで非常に詳細に記録しているので、興味ある人には貴重な研究資料といえるかもしれません。当時の文壇の記録としてこういう作品を残してくれたことは、我々後世の人間にとっては非常にありがたいことだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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