蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

泉鏡花 「外科室」

泉鏡花の描く世界が好きという人は結構いますね。あの幻想的で不思議な独特の世界は泉鏡花ならではのものです。こういうふうに書くべきだとか、こういうふうに書くのはおかしいとか、そういう小説における約束ごとのようなものが暗黙のうちにあるとすれば、おそらく鏡花はそれに一瞥も送ることはないと思います。普通、あり得ないようなストーリー展開だとか、登場人物の不思議な言葉のやりとり、作品全体を蔽う幻想的な雰囲気などから推測するに、鏡花は本当に自分が書きたいように書いているという印象を受けます。誰にどう思われようが関係ない。自分の中にこういうイメージが浮かんできた、それをこういうふうに書きたいんだ、そう主張しているような気がします。この作品はある貴婦人が手術を受ける話ですが、うわごとを言うかも知れないという理由で麻酔を拒否します。実は彼女は手術する医者への恋心を抱いていて、それが家族にばれることを恐れているわけです。それで結局麻酔なしで手術を始めたら・・・鏡花ならではの驚きの展開が待っています。ではいつから彼女と医者が恋仲だったのかというと、若い頃にちらっと視線を交わしたかどうかというただそれだけなんです。それでそんな深い想いを持つわけないだろう?とツッコミたくなるわけですが、それこそが泉鏡花ワールドなんです。この作品を読む時には、それまであなたの持っていた小説とはこういうものという常識を一切捨てて下さい。そして小説というよりも長い幻想的な詩を読んでいると思って下さい。そうすれば理論的なものを一切超えた感性の部分に響いてくることと思います。作家が成功するにはテーマの選び方や表現技法も大事ですが、自分だけの世界を作り上げることが最も必要とされます。鏡花は見事にそれに成功しているといえます。他の作家では決して味わえないものがあります。鏡花の創造した非日常的、非現実的な世界を楽しむ。これが癖になるんです。あなたもどうぞ足を踏み入れて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

泉鏡花 「婦系図」

泉鏡花の作品のイメージは、「高野聖」に代表されるように幻想的、オカルト的なものと受け取られがちですが、全くの大衆文学でドラマのシナリオに持ってこいのような物語もそれは素晴らしいものを残しています。明治の末期に新聞連載されましたが、この時代において尾崎紅葉の「金色夜叉」と徳冨蘆花の「不如帰」とこの「婦系図」は、三大国民的通俗小説といわれました。確かにこの三作品は非常にドラマティックで、ストーリーの展開に心を奪われ、登場人物と一緒に喜び、怒り、悲しむというふうに読者を引きずり込む面白さが特徴です。通俗小説、いわゆる面白さを重視する大衆小説は明治の頃といえど他にもたくさんあったわけですが、この三作品は群を抜いていますのでどれもお勧めです。このような作品が当時の一般大衆を夢中にさせた構図は、あたかも現代において中高年の人が韓国のドラマに夢中になるのに似ているような気がします。韓国のドラマは、もはや日本のドラマでは見られない驚くほど意外な展開で視聴者を夢中にします。そんなこと実際にはありえない話だと思わせつつもテレビの前から離れられないという、強引さを含んだ魅力を持っています。まさにそれこそこの作品の魅力です。主人公の早瀬とお蔦の悲恋を中心に進むストーリーは、信じられないような驚きの展開で読者を振り回します。読み進むうちにどんどん話は盛り上がっていき、最後の留めにはこれまた驚きの結末が待っています。読み出したら止まらない作品です。それほどの面白さがある作品ですからこれまで何度もドラマや舞台で演じられてきました。(ただし舞台でよくやる「湯島境内」の別れの場面は舞台用に後から書き加えられたものなので原作にはありません。)演目としては定番中の定番となっています。ドラマや舞台で見たという人も多いことでしょうが、ここは是非原作を読んで下さい。師匠の尾崎紅葉にひけをとらぬ名文で読めば、物語の深みを味わうことができます。韓国ドラマに負けない面白さを保証しますよ!

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泉鏡花 「高野聖」

えしぇ蔵の個人的見解としては、泉鏡花という人の存在があったからこそ日本の文学の可能性がそれ以前よりも広くなったのではないかと思います。この人の作品の特徴はなんといっても怪奇趣味ですね。それと独特の雰囲気を伴ったロマンチシズムです。独特の雰囲気というのは端的に言うと幻想的な世界とでも表現すべきでしょうか。なんともうまく言い表せない摩訶不思議な世界が展開されています。そういった作品全体の雰囲気にしろ、読み手を退屈させない意外な展開を見せるストーリーにしろ、実にオリジナリティにあふれており、それまでの日本の文学を大きく揺さぶったことは事実だと思います。そして後世の作家たちに新しい文学の可能性を示して、日本文学の発展に大きく寄与したと言ってもいいと思います。実際に彼を師と仰いだ人達の中には後の大物が目白押しです。その辺の経緯を知った上でこの人の作品を読むと、偉大なる人物の仕事に触れているという実感がわいてまた感激するものがあります。この「高野聖」は彼を人気作家にし、文壇における地位を確実なものとした作品です。そしていわゆる幻想的怪奇趣味的ロマンチシズムを持った泉鏡花ワールドを象徴するものです。峠をゆく旅の僧侶が、山中に見つけた一軒家に一夜の宿を乞います。そこには妖艶で美しい女性がいました。その女性実は下心ある男性を畜生に変えてしまうという恐ろしい妖怪で、それまでに何人もの男が餌食になっていました。果たして旅の僧侶は無事に朝を迎えることができるのでしょうか・・・?雰囲気とストーリーは読者を強烈に惹きつけます。あなたも泉鏡花ワールドに是非浸ってみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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