蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

平林たい子 「砂漠の花」

この作品を読んだ時に、力作とはこういう作品を指すのだろうなと思いました。なんというか、エネルギー満タンの作品とでもいいますか、力強さがみなぎっています。まさに平林たい子という人を知るにはこの本を読むべしという感じです。ストーリーは平林たい子自身の半生を描いた自伝です。学校を卒業して上京し、電話局に勤め始めるところから始まり、小堀甚二との結婚の話がまとまるかどうかというところまでを描いてあります。その間の出来事というのがこれが本当に凄まじいものでして、よくまぁここまでの経験をして、無事に生き延びられたものだなと思わせられます。アナーキストとの結婚、大陸に渡ってからの挫折、慈善病院への入院、出産、乳児の死、放蕩、関東大震災、いろんな男との出逢いと別れ・・・普通だったら不幸な自分に嫌気がさして自殺しても不思議ではない経験をしていくわけですが、それでも彼女はどこか冷めた部分があって、そういう自分を冷静に観察しています。いつかは作家になるという夢を持ち続け、自分の体験がいづれネタになることを見越して、敢えて苦労の中に飛び込んでいたような節もうかがえます。彼女の表現力を最大限に駆使してあり、描写は的確、表現は巧み、流れはよどみなく、その文章力をいやというほど見せ付けられます。彼女の人生を知るにも、彼女の力量を知るにも、最適な一冊だと思います。個人的な感慨としては、この平林たい子という作家の、文学に対して真正面から取り組む真剣な姿勢は、多くの名をなした作家の中でも特に賞賛されるべきだと思っています。そのぶれない芯の強さは、いずれの道に進むにしろ大いに参考にすべきだと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

平林たい子 「施療室にて」

えしぇ蔵が平林たい子を知った時には、もうかなりの数の作家の作品を読んでいました。それだけに既に自分の中に自分なりの作家のランク付けがされていたので、この人のずば抜けた才能に触れて驚かずにはいられませんでした。ちょっと真似しようにもとてもできない知的で芸術的な表現を身に着けるには一体どうすればよいのか、教えを乞いたいと思いました。この作品は波乱万丈という言葉ではその一端も表現できない彼女のすさまじい人生の軌跡の一部を切り取った体験談のような作品です。アナーキストであった当時の夫と満州に渡りますが、夫は警察に捕まり、自分は妊娠していたので慈善病院に入院します。やがて出産しますが、栄養失調で脚気になってしまいます。生まれた子どもに与えるミルクもなく、やがて子どもは死んでしまいます。人間ここまでどん底の心境っていうのがあるのだろうかという深くて暗い悲しみと虚しさを、恐ろしいほどの巧みな描写で表現しています。苦しいから助けてくれという訴えではなく、こんなみじめな自分って一体なんなんだろう?という諦観的な見地に基づく描き方が余計に読み手に訴えてきます。彼女はこの作品でプロレタリア作家として認められデビューします。デビューでこれですから本当に脱帽です。彼女は女学校を卒業後、就職という名目ですぐに上京します。しかしその上京の真の理由は社会主義運動に参加するためでした。つまり若い頃から激しく熱いものを内に秘め、社会に訴えたいものがあったわけです。そしてその後に経験する艱難辛苦は彼女の作品の形成に大きく貢献します。ただ、苦難を経た人が全ていいものを書くというわけではないので、彼女の傑作はいわば才能と経験の融合によって生み出されたのではないかと思います。たくさんの秀作を残して世を去りますが、文学史に残した足跡は非常に大きいです。こんなすごい女流作家を知らずにいた年月が長いことをつくづく恥ずかしく思いました。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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