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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

尾崎一雄 「なめくじ横丁」

なめくじ横丁とはかつて淀橋区にあった実在の場所です。湿気の多いじめじめとした場所だったのでなめくじが実際に多かったらしく、そういう名前になったそうです。尾崎一雄は一時期この横丁に住んでいたことがあり、その頃の思い出を綴ったのがこの作品です。従っておそらくほぼそのまま実話だと思います。この作品の何がすごいかというと、とにかく登場人物です。この横丁にはなぜか作家がたくさん集まっていました。まず尾崎一雄が住んでいる部屋が壇一雄が借りている家の一階でした。そこに仲間が集まってきます。浅見渕、丹羽文雄、古谷綱武、古谷綱正、田畑修一郎、中谷孝雄、外村繁、中島直人、木山捷平、光田文雄。そして古谷の家に集まるのが大鹿卓、太宰治、古木鉄太郎。尾崎一雄の家の向かいに引っ越してくるのが上野壮夫で、そこに集まるのが、本庄陸男、平林彪吾、小熊秀雄、亀井勝一郎、加藤悦郎、吉原義彦、神近市子、矢田津世子、横田文子、若林つや子、平林英子など。他にも井伏鱒二、坂口安吾、滝井孝作、佐藤春夫、里見とん、菊池寛などの名前も出てきます。文学好きから見ればそれはそれは錚々たる人々です。タイムマシンがあったら酒飲んでわいわい騒いでいる中に割り込んでみたいところです。そんな仲間たちとの貧乏だけど愉快な時代の話です。夢を抱いて信じるものを夢中で追いかける若者たちの青春の情景を描いた作品でもあります。非常に興味深い作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

尾崎一雄 「暢気眼鏡」

尾崎一雄は私小説(心境小説)作家で、物書きでありながら一所懸命書くわけではなし、かといって他の仕事をするでもなし、だから必然的に貧乏でおまけに病弱、家族には苦労をかけっぱなし……という私小説作家によくありがちのパターンの人で、そんな生き様をそのまま描いたような作品が多いです。日常生活で思ったことをつらつらと書いていく感じなので、今の時代に発表するとエッセイに分類されてしまうかもしれません。文章は極めて読みやすく、ストレスを感じません。志賀直哉の弟子で、その文章スタイルを大いに参考にしていますから、読みやすさは師匠譲りと言えるでしょう。この作品は、貧乏なのにあせることのない主人公と、それに同化してしまうこれまた暢気な奥さんの話です。そのまんま尾崎一雄と奥さんの話なんですが、奥さんの人物描写が非常に的確にその人間性をとらえており、ありありとその微笑ましい人柄をイメージできます。その描き方の中に尾崎一雄の奥さんへの愛情が感じられて、心温まるものがあります。暢気な二人の暢気な生活は、貧乏もそっちのけでささやかな幸せを形づくっていきます。なんともユーモラスで微笑ましい夫婦の物語です。物は考えようと言いますが、同じ貧乏でもこの二人のように暢気にとらえることができるならば、不幸の要素にはなり得ないのでしょう。見習うべき部分もあるかもしれません。この作品を含めた短編集「暢気眼鏡」は第5回芥川賞を受賞しました。是非他の短編も読んでみて下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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