蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

滝井孝作 「松島秋色」

えしぇ蔵は旅行に行くと一応記録として旅行記みたいなものを毎回書いていますが、この作品を読んで同じ旅行記でもこんなに圧倒的な芸術性の差が出るのかと打ちのめされました。とにかく素晴らしいの一言です。内容は滝井孝作が松島に取材を兼ねて旅行した時の記録ですが、文学性が高く非常に芸術的な旅行記となっています。松島の美しさが目の前に広がるかのような見事な自然の描写には感嘆させられます。松島といえば奥の細道ですが、松尾芭蕉や弟子の河合曾良がここでこんな歌を詠んだと説明している箇所があります。同じ場所を師匠はこう詠んだが、弟子はこう詠んだ、などと分析しており非常に興味深いものがあります。俳句を志す人というのは自分が感じたものをわずか十七文字で詠うことによって、人間としての感性が研ぎ澄まされていくものなのかもしれません。だからこそ俳人でもある滝井孝作の旅行記がただの旅行記ではなくなるのでしょう。もっとも滝井孝作の場合、師匠に恵まれたということも作品の質を上げる一つの要因になっていると思います。俳句は高浜虚子とともに正岡子規門下の双璧といわれた河東碧梧桐に、小説は芥川龍之介と志賀直哉に師事していますからこれ以上の環境はないでしょう。才能はしっかりと伸ばされたわけです。そうして生まれたこの作品ですが、ざっと読み進むのではなく一行一行じっくりと噛み締めながら、松島の情景を思い浮かべながら読んで頂けたらと思います。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

滝井孝作 「無限抱擁」

俳人として有名な滝井孝作ですが、小説もまた素晴らしい作品を残しています。志賀直哉を崇拝し、小説の技法は志賀直哉と芥川龍之介に学んだそうです。だから似ているのかなと思われがちですが、まぁ似ているといえば似ていますが、学んだものをベースにして自分の世界をきっちり作り上げているので、作品としては完全に滝井孝作の世界になっています。非常にユニークな書き方をする人なので、読む時には注意が必要です。句読点を打つ場所や、改行のタイミングがちょっと独特です。そしてこの作品では特に過去と現在を行ったり来たりしますし、作中に作品が登場し、その中にまた作品が登場したりと、三重の構成になっている部分もあります。最後のほうは語り手も交替します。(この語り手が交替するという手法は、一つの出来事を視点を変えて多面的にとらえることができるので、読者は頭の中で作品を立体化したように明確に把握できます。小説の技法としては非常に面白く、また効果的なものです。この手法を真似て、芥川龍之介は「藪の中」を書いたそうです)ぼーっと読んでいたのではわけがわからなくなりますので集中して読んで下さい。内容はいわゆる心境小説です。純粋な若者が遊びを覚え始めて知り合った遊女を好きになり、紆余曲折を経てなんとか一緒に暮らせるようになったけれども、彼女が肺病になって……という当時としてはありがちなストーリーなんですが、主人公の心の内側の描き方、登場人物の気持ちのやりとりが非常にリアルに描写され、非常に奥深い作品に仕上がっています。滝井孝作本人によれば、「……この作品は、私自身の当時の生活をありのまま、正直に一分一厘も歪めずこしらえずに、写生したもので、執筆当時の事は、この作品自体が語っているわけです」とのことなので、完全なる自伝小説とも言えます。だからここまでのリアリティが表現できたわけですね。あまり作品を多く残してはいませんが、滝井孝作の世界にはまるのもいいかもしれませんよ。

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