蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

有吉佐和子 「華岡青洲の妻」

まず華岡青洲という人から説明しないといけませんね。医療関係の人なら知らぬ人はいないでしょう。世界で初めて麻酔による手術をした人です。しかも江戸時代にです。江戸時代の日本の医療なんてヨーロッパに比べればかなり遅れていたわけですから、まさか日本人が最初とは思わなかった人も多いことでしょう。ただそれ以前に成功したという例(例えば中国の華佗など)もあるようですが実例として証明されているものとしては世界初だそうです。すごい日本人もいたもんです。この物語では華岡青洲が麻酔を開発し、それによって乳癌の手術を成功させるまでの苦労が描かれていますが、物語のタイトルには「妻」となっています。そうです、主人公は妻のほうなんです。そこが面白いところです。女流作家の視点で偉人を描くとその人の違った側面が窺えますし、支える家族の苦労にも焦点をあてるので、男性が描く英雄譚にはない面白さとあたたかみがあります。華岡青洲の妻は夫を支えるべく粉骨砕身努力しますが、ここに嫁姑問題が絡んできます。母親も華岡青洲を溺愛しており、嫁にその愛情を占有されるのを良しとしないわけです。どこの家庭にも見られる状況がここにもあるわけです。それが徐々にエスカレートし、華岡青洲が麻酔の人体実験を試みる段階で、その実験台になりたいと二人が争う場面でピークを迎えます。かつてジェンナーも天然痘の治療法の開発において使用人の息子や自分の息子を実験台にしましたが、医療の進歩において避けて通れないのが人体への実験です。そこに至って逡巡する華岡青洲のために自分が犠牲になると言って譲らない母親と嫁はここで凄まじい愛の修羅場を演じます。息を呑むような激しい言葉のやりとりは圧巻です。結局両方実験台になるわけですが、その後思わぬ悲劇が待っていました……。日本の医学史上に残る素晴らしい業績を残した華岡青洲とそれを支えた二人の女性の物語はただの感動ものではありません。もっともっと人間的で深いものです。なかなか考えさせられるものがあります。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

有吉佐和子 「恍惚の人」

女流作家の中でもこの人は取り組んだ問題を徹底的に調べるところが非常にすごいと思います。まるで女流松本清張という感じでしょうか。いろんな問題に取り組んで作品を世に出し、社会に対して訴えるその姿勢は読む人の心を強く動かします。この作品は老人の痴呆、今でいう認知症をテーマにした作品です。発表されたのは昭和40年代ですので、まだまだ認知症に対する社会の認識は低く、行政も行き届いていない頃でした。作品の中の記述にありましたが、老人の痴呆は虫歯と同じく文明の発展が生んだものだそうです。つまり、昔はこんなにいろいろなものを食べなかったので虫歯はなかったし、こんなに長生きしなかったのでボケる人も少なかったというわけですね。現代を生きる我々が取り組まざるを得ない新しい問題なのです。老いは絶対に誰にでもくるもので、今若いからといってこの問題に無関心でいるというのは未来の自分を蔑ろにしているのと同じです。個人が、社会全体が、正面からこの問題に取り組んで、今の老人、未来の老人のために行動を起こしましょう!という強い訴えが作品を通じて伝わってきます。この作品は当時ベストセラーになり、老人の介護問題が大きくクローズアップされ、現実に社会に対して大きな影響を与えることに成功しました。ですから日本の社会全体の発展に寄与したと言ってもいい作品です。構成も文章も完璧で、作品としての完成度も素晴らしいです。この作品は一人でも多くの人に、特にいづれ老いることを認識していない今の若い人たちには読んで欲しい一冊です。ちなみにこの「恍惚の人」というタイトルは、「日本外史」の中の三好長慶に関する記述の中の「老いて病み恍惚として人を知らず」という一文からひらめいたそうです(三好長慶は戦国時代に近畿地方に覇を唱えた大名ですが、相次ぐ肉親の不幸により精神的な病に犯され、43歳にして亡くなります。おそらく痴呆のような状態ではなく、今でいう欝のような状態をそのように表現されたのではないかと思います)。

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