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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

永井路子 「山霧」

男性と女性で物事の捉え方が大きく異なる場合があるのは非常に興味深いことだと思います。例えばこういう話を聞いたことがあります。庭に畑を作った時に、花を植えようとするのが男性で、野菜を植えようとするのが女性だそうです。つまり女性は男性のように夢ばかりを追いかけるのではなく、今を堅実に生きようとします。それはつまり家族を守ろうとする本能からくる自然な現象ではないかと思います。では女性が歴史を振り返った場合にはどういう見方をするのでしょうか?男性の場合とどう異なってくるのでしょうか?それが一番よくわかるのが、永井路子による”女性の目から見た歴史”を描いた小説です。同じ出来事でもこうまで違って見えるものかと非常に面白く読めます。永井路子は非常に細かく調べ上げて、そこに自分なりの解釈を加えて隙のない文章で物語に仕上げます。しっかりとした調査がベースになっているので創作といえど軽くなく、説得力もあります。いわば一つの彼女なりの仮説を物語にしているといったほうがいいかもしれません。この作品は戦国時代の中国地方に覇をとなえた毛利家を中心に話が進んでいきます。ということは毛利元就の話かなと思いますよね?確かに毛利元就は一番多く登場します。ですが、それなら他の歴史ものと変わらないわけです。永井路子が描くわけですから視点は女性からのものです。この作品の主人公は毛利元就の妻のおかたです。中国地方を統一した男を支えた女性の生涯とはどういうものであったか?それを調べて書かれたのがこの作品です。是非この点に注意して読んで頂きたいのです。なぜなら、おかたが死んだ時点でこの物語は終わってしまうからです。元就が陶晴賢を倒し、尼子を倒して中国に覇を唱えるのは妻の死後です。元就を主人公だと思って読んでいくと、「えー!これから面白くなるのにー!」というところで終わってしまいますから、くれぐれもご注意下さい。永井路子が書く歴史ものは一味も二味も違いますから読んでみる価値は大いにありますよ。

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永井路子 「北条政子」

歴史小説の世界において女流作家とくればまずは永井路子が上げられます。日本の歴史を、女性を主人公にして女性の視点から描いた作品を数多く残しています。「美貌の女帝」では氷高皇女(元正女帝)を、「山霧」では毛利元就の妻のおかたを、「乱紋」では織田信長の妹のお市の娘(お茶々、お初、お江)を、「一豊の妻」では山内一豊の妻の見性院を、「朱なる十字架」では細川ガラシャを、「波のかたみ」では平清盛の妻の時子を描いています。「歴史をさわがせた女たち」という作品もあります。他にも女性の視点からの作品は多々ありますが、それらはあくまで歴史を動かす男性たちを支える女性の物語となっています。ところがこの作品は違います。北条政子は源頼朝の妻ですので物語の最初においては頼朝を支える女性として描かれていますが、頼朝亡きあとは明確に歴史の主役に躍り出ます。歴史を動かす女性として描かれています。幕政の実験を握って世を動かし尼将軍とまで言われたそのリーダーシップは歴史が証明しているように、北条政子は歴史の脇役としての女性ではなく、主役の女性であると言えます。だからその人物像も強烈な個性を放って力強く”歴史の主人公”として描かれています。しかもそれまでの北条政子像を永井路子なりの新説を駆使して覆し、新たなイメージを創り出している点も評価できます。ここまでの大物の女性を的確に描けるのは永井路子以外にいないのではないかと思います。是非ご一読下さい。

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永井路子 「恋のうき世」

高校生の頃、古文の時間に「今昔物語」を習った人は多いと思います。あの「今は昔・・・」で始まるやつですね。あれは古文の読解の難しさは別として、ストーリーとしてはえしぇ蔵は結構面白く感じましたが皆さんはいかがでしたか?笑えたり、怖かったり、ちょっと色気もあったりして、いわゆる人間のありのままを描いたエンターテイメントでした。なんと1000以上の話が集められているそうで、日本最高の説話文学と言われています。その中のいくつかをヒントにして永井路子流に創作した作品群がこの「恋のうき世」です。他の作品もそうですが、永井路子は読みやすく書いてくれるのが特徴です。この作品も題材は中世ですが難しい表現は少なく、ユーモアたっぷりに書いてありますのでストレスなく読み進むことができます。えしぇ蔵は一日で読んでしまいました。七つの話がおさめてありますがどれも面白く、お色気もたっぷりでエンターテイメント性にあふれた読物です。これを読んでつくづく思いましたけど、人間ってのは今も昔も愚かでユーモラスな生き物であって、その本質は1000年という時間を経ても基本的には変わらないものなのかもしれませんね。永井路子も作品の冒頭の「はじめに」の中で、「今は昔」ではなく、「今も昔も」という感じで読んで欲しいと書いています。この作品のサブタイトルの「新今昔物語」の”今昔”とはつまりそういうことを意味しているわけですね。とにかく楽しめますから気軽に読んでみて下さい。

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永井路子 「歴史をさわがせた女たち」

現代に生きる我々が歴史を学ぶという時には学校の教科書や多くの本に書いてあることに頼らざるをえませんが、果たしてそれは真実なのでしょうか?実は多くの場合それは”定説”というものに頼っているわけで、誰も真実だと言い切ることはできません。ではその定説というのはどうやって生まれたのでしょうか?これらは江戸時代に当時の価値観によって都合のいいように作られたものが多いのです。真実がどうであったかきちんと調べたというよりは、若干の材料をもとに創作されたものというほうが当たっていたりするわけです。だから定説というより真偽の怪しい伝説ですね。極悪人だとされていた人物がそうではなかったとか、劇的な名場面はなかったとか、有名なセリフは後世の創作だったとか、おそらく調べれば調べるほど出てくると思います。そういう残念な状況に敢然と立ち向かったというイメージがあるのがこの永井路子です。彼女は自分の力で入念に調べなおし、定説も伝説も違うと思えば根底からひっくり返し、他とは違う角度で人と出来事を観察し、無視されがちな些細なことにも注意し、その結果たどり着いたものを自分なりに解釈しなおし、誰にも理解しやすいような親しげな文体で作品に仕上げています。実に素晴らしい仕事をする人です。ですからその作品は読みやすく面白いですし、また意外性が多分にあって非常に興味深いです。そんな彼女が歴史上有名な女性たちをもう一度彼女なりに調べ直し、より真実の姿に近づこうとしたのがこの作品です。登場する女性は神話の時代から明治まで33人です。おそらく皆さんの中にある常識が何度もひっくり返されて驚くと思います。長い時間と政治的・社会的な意図によって真実の姿を変えられていった女性たちの本当の素顔を明らかにしていこうというのですから面白いのはもちろん、文献としても非常に貴重なものだと思います。彼女特有のユーモラスな語り口でわかりやすく説明してくれますので歴史に興味ない人も楽しめます。是非この作品を本当の歴史というものを考え直すきっかけにして頂ければと思います。

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