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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

宮本百合子 「伸子」

宮本百合子。共産党の方たちにとってはまさにジャンヌ・ダルクのような伝説的ヒロインでしょう。旦那さんはこれまた共産党の大ボス、カリスマ、英雄である宮本顕治です。プロレタリア文学の世界においては戦前、戦中、戦後と活躍し続け、挫折したり転向したりする作家も多かった苦難の時期を見事に初志貫徹。その強い姿勢によって伝説化した超大物女流作家です。ではこの作品はプロレタリア文学なのかというと違うんですね。これは初期の頃の作品で、まだプロレタリア文学は草創期の頃です。内容はある先進的な考えを持つ伸子という女性が主人公で、自分の理想を実現するために周囲の反対をしりぞけて結婚しますが、徐々に相手の男性に対する失望が生まれ、理想は少しづつ崩れていきます。思うままにならない人生に煩悶を覚える中、伸子はある女性と知り合います。男性に頼らず自立して力強く生きているその女性との出会いは伸子にとって大きな刺激となりました。そして伸子は未練たらたらの旦那に対して離婚を決意した手紙を書き、新たな人生に踏み出していきます……。宮本百合子は一度離婚していますが、その時の自分の体験をもとにしています。自分は女性だけどこれからの時代、自分の意見をはっきりと持って生きていきたい、という思いが当時の日本の伝統を重んじる環境や小市民的な旦那の消極的な生き方に阻まれていくというストーリーには、日本の女性の生き方を変えていきたいという作者の熱い思いが込められています。今では女性がどういう生き方をしようがそれは本人の自由です。努力次第で経済的にも立派に自立できます。また社会の環境や世相もそれを否定するものはもはや見受けられません。だから今の若い世代の女性がこれを読むんでも共鳴するものがあまりないかもしれませんが、過去にこういう時代があったこと、そして社会に白い眼で見られながらも意志を貫いた女性たちによって現代のような自由な時代が切り開かれたことを知って頂くためにも是非読んで欲しい作品です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

宮本百合子 「貧しき人々の群」

プロレタリア文学において女性として最も大きな足跡を残した宮本百合子の記念すべきデビュー作です。日本女子大学に在学中に書かれ、父親の知り合いを通じて坪内逍遥にこの作品が渡ります。この大先生によって賞賛されたから大変なことになります。そこから滝田樗蔭の手に渡り、「中央公論」において広く世間に発表されます。大先生の太鼓判付ですからすぐに一世を風靡し、「新しい閨秀作家が生まれた」と当時の新聞にでかでかと書かれてあっさりと文壇の仲間入りです。彼女は大学を退学して早くも作家生活に入ります。この人の場合はこんな感じで最初からすごい人でした。そしてその後プロレタリア文学の大きな流れを作る一人になるわけですが、この作品で既にその目指すところが見えています。社会の一番下の層にいる貧しい人々の憐れな姿を見て、この不合理な社会を改善すべく自分は何かをしなければいけないと主人公の少女は一人決心して行動に移しますが、現実はそんな彼女の意気込みをあざ笑うかのようにその善意を跳ね返します。生活をよくしていこうという意志を貧しい人々の中に感じることができない彼女は、矛盾に苦しみつつ自分のなすべきことを探して悩みます。無駄にみえる小さな努力でもやめてはいけない、そのうちにきっと何かをつかむはず・・・そんな思いを支えに前進を続ける主人公の強い姿は、まさにその後の宮本百合子そのままです。彼女のデビュー作であると同時に、意思表明でもあるといってもいい名作です。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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