蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

中里恒子 「乗合馬車」

中里恒子が第8回芥川賞を受賞した作品です。作家には自分が作品によって取り上げたいテーマがあるのが普通です。持てる筆力をもってそれを掘り下げ、表現し、主張し、世間に問題提起する作家は少なくありません。中里恒子の場合は、「国際結婚をした家族の苦労」がそれにあたります。そのテーマをもとにした作品群は一般に「外人もの」と言われています。今でこそ誰かが国際結婚したと聞いても、「里帰りが大変だろうなぁ」くらいの感慨しか持たなくなりましたが、昭和の初期ともなるとこれは大変なことでした。当時はまだ「外人と結婚する」ということに対して偏見を持っている人もいましたし、またその子どもを「あいのこ」と呼んで差別する風潮もありました。ましてや明治から昭和初期までは戦争に次ぐ戦争で、敵視する外国が常にある状態でしたので、その立場は非常に不安を伴うものでした。だから当時の国際結婚というのは今では想像もつかないほどの苦労を敢えて買ってでる行為だったといえます。遠い国から海を越えて日本に嫁に来て、冷たい空気の中でも強く生きようとする女性たち、友達にからかわれて悩む子どもたち、そういう世界を若い頃から取り上げて、しっかりと自分のテーマにしているというところにすごさを感じます。きっかけは実の兄が国際結婚をしたことでした。非常に身近な問題だったわけです。この作品はそれを題材に書かれています。異国情緒ある作品の雰囲気は彼女独特のもので、非常に好感が持てます。この作品に限らず、「日光室」や「遠い虹」などのほかの「外人もの」もお勧めです。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

中里恒子 「綾の鼓」

この作品はタイトルの「綾の鼓」の意味がわかれば作品の主旨がおおよそ把握できます。この「綾の鼓」というのは能の世界では有名な作品のタイトルなのです。ある身分の低い老人が、雲の上にいるような高貴な女性に恋をします。とうてい叶わぬ恋ですが、女性は庭の桂の木に鼓をかけて、それを鳴らすことができれば老人の望みを叶えてやると約束します。老人は鼓を鳴らそうとしますが鳴りません。なぜならそれは皮ではなく綾が張ってあったからです。老人は絶望して池に身を投げて自殺します。この老人はその後怨霊となって現れ、女性に鼓を鳴らせとせまります。老人の逆襲ですね。今度は女性のほうが鼓が鳴らずに苦しむという話です。作品の中でもこのエピソードは説明されていますが、予め理解した上で読み進むと作者が何を言わんとしているのかがよくわかります。この作品の場合は男が好きになった女性は人妻でした。二人は深く愛し合いますが、周囲の人間関係を尊重する上ではこれもまた、”いくら努力しても叶わぬ恋”というわけです。鼓は打っても打っても鳴りません。ところがこの二人、絶望することなく大胆な行動に出ます。綾の鼓が鳴らないのであれば皮に張り替えてしまえ、ということで全ての人間関係を捨てて二人でスペインに行ってしまいます。時代が戦争中ということも重なり、二人には様々な苦難が用意されていますが一つ一つ乗り越えて、ついに二人はその愛を貫き通します。鼓を張り替えるほどの強い愛もあるぞというわけですね。ただ、二人の幸せの過程には他の多くの人の不幸や迷惑が土台となっていますので、そのへんはどうなのかという疑問が残るのも確かです。恋愛に対する考え方において賛否両論に分かれる作品ではあります。さてあなたの意見はどちら?是非一読して考えてみて下さい。

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中里恒子 「中納言秀家夫人の生涯」

中納言秀家とは誰のことかご存知でしょうか?歴史が好きな方なら五大老の一人と言えばすぐにわかりますね。備前宰相 宇喜多秀家のことです。この人の人生は非常にドラマチックでした。栄耀栄華の頂点にまで登りつめた後は、全てを奪われ失意のどん底にまで落とされます。人の一生においてこれほど浮き沈みの差が激しかった人も稀だと思います。もともとは備前岡山の一大名でしたが、織田信長の傘下に入ることにより運が開けます。信長の死後は豊臣秀吉の配下となり、当時まだ若かった彼は秀吉から秀の字を貰って猶子になるほど気に入られます。秀吉の天下統一の過程における主な合戦には全て参加し手柄をたて、朝鮮出兵の際には大将にまで任命されます。やがては徳川家康、前田利家、上杉景勝、毛利輝元と並ぶ五大老の一人に列せられ、まさに栄華のきわみを味わいます。ところが秀吉の死後に運命は暗転します。関ヶ原の合戦の際に故秀吉への忠義を重んじた彼は西軍に組します。西軍敗退後はしばらく逃亡しますが最終的には八丈島へと流されます。この話は全てを失ってどん底に落ちた状態から始まります。前半の輝かしい人生が全て省いてあるところに、むしろかつての栄華の名残が寂しく感じられます。それまで金も名誉も権力も、全てに恵まれていた人が食糧の調達にも苦労するような土地の荒れた八丈島に流されるわけです。生活における細かい苦労話を中里恒子が非常にリアルに描写しています。このへんはやはり女流作家の腕のみせどころでしょうか。秀家夫人というのはあの前田家の豪姫です。何も不自由のない生活をする豪姫と、窮乏を味わう秀家を対照的に描きつつ、二度と会えない夫婦のお互いへの叶わぬ想いを切々と描写して実に胸にせまるものがあります。女流作家が書く歴史小説は情感豊かなのがいいですね。読んだ後に深く心に残るものがあります。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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