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福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

山口瞳 「江分利満氏の優雅な生活」

芸術は模倣では大成しません。必ず自分だけのスタイルを確立することが成功の必須条件となります。文学もそうで、師とあおぐ作家の模倣から最初の一歩を踏み出す作家がほとんどだと思いますが、名を上げた人はそこから必ず自分だけの作品の世界を構築することに成功しています。時世に乗る乗らない、大衆に受ける受けない、批評家に評価されるされないは関係なく、自分の文体、自分のテーマ、自分の言葉によってオリジナルの世界を築き上げた人が文学史に名を残していると思います。ただそうは言ってもその独自のスタイルが意図せず他の誰かと相似している例はよくあります。この作家の作品はなんとなくあの作家のものに似ていると思うことは皆さんも経験されたことだと思います。そこでこの山口瞳という人の作品を考えてみますと、これはもう他に全く例をみない孤高の世界です。多くの人が住む街を遠く離れた郊外に巨大な城を築いて一人で住んでいるという印象を受けます。50代以上に多く見られる山口瞳ファンはつまりはこの世界に魅了されているわけです。ではどういう世界なのでしょう?この人の場合はとにかく文章が面白い。軽妙でユーモラス。ちょっと皮肉も入って自虐的。少し冷めた眼で世間を眺めているけど、実はその内側に思い切り訴えたいものが、熱いものが隠されている。それがこの人の特徴で、この作品を読めばそれがすぐにわかります。彼がここで言いたいのは昭和30年代のどんどん成長しつつある日本の社会を構成する”普通の人々”の生態に隠された本音です。本当に面白くて愉快に読めるのですが、どこかかすかに寂しいものがある、裏に隠された涙があるんです。ただ単にチャラチャラしたウケねらいの小説ではありません。だからこそベテラン作家たちに訴えるものがあったのでしょう。昭和37年に直木賞を受賞しています。山口瞳に凝ってみようかなと思う人は是非最初の一冊にこの作品をどうぞ。そして彼独自の世界へお進み下さい。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

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