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蔵書

福岡ESEグルメのえしぇ蔵による、日本文学の書評ブログ・・・もどきの読書感想文ブログです。

井上友一郎 「残夢」

昭和15年の第11回芥川賞の候補作になった作品です。井上友一郎という作家が目指すところは本格小説であったわけですが、若い頃に書いたこの私小説のジャンルに入る「残夢」が文壇デビューのきっかけとなったということはある意味ちょっと皮肉かもしれません。作家に限らず芸術家全般そうですが、有名になる時にはこういうことはままありますね。そういう点に留意して頂いてこの作品を読んで頂きたいと思うわけです。なぜならこの傑作を読めば、「あぁこの人は優れた私小説作家だ」と思う人が多いだろうと予測できるからです。彼の目指したものはここにはありませんからご注意下さい。ストーリーは私小説ですからほぼ実体験と言っていいと思います。背景は太平洋戦争前、日華事変が起こった頃のあの不穏な空気に包まれた時代です。主人公は既に結婚していましたが、ふとかつて自分の青春に輝かしく光っていた頃があったろうかと疑問に思い、今からでもそれを味わってみたいという衝動にかられ、友人の勧めるダンスホールに通うようになります。これが要するに失敗と堕落と苦労の始まりです。ここで出会った女性に心を奪われますが、彼女は軽薄な典型的小悪魔でした。主人公のことを一途に愛しているように思わせといて、実は軽く考えている。でもやっぱりどこかに真実があるなと思っているとあっさりと違う方向に歩み出している……という感じで、哀れな主人公は振り回されっぱなしです。そのうち奥さんにも見限られて実家に帰られてしまう。そんな情痴に溺れて足を踏み外した情けない男の話です。作品としては構成も表現もそつがなく、きっちり完成された傑作です。読み終わって続きが気になったら、「夢去りぬ」をどうぞ。

テーマ:感想 - ジャンル:小説・文学

石川淳 「普賢」

えしぇ蔵にとって石川淳の作品との出会いがどれほどショックであったことか、うまく表現する言葉が見つかりません。個人的には横光利一以来のショックでした。流麗巧みな文章表現と完璧な構成はかなりの小説修行を積んだ後に満を持して書かれたもののように、どの角度から検証しても無駄も隙もない完璧なものに思えます。いろんな作家の作品を読んでると、「よし、頑張るぞ!」と励ましてくれるものも多いですが、石川淳の作品はことごとく、「自分にここまでの作品が書けるだろうか?」と、物書きとしての熱意を根本から大きく揺すぶられるようなものばかりです。そしてこの「普賢」は恐ろしいほど秀逸な作品です。昭和11年に芥川賞を受賞していますが、それくらいの評価は当然であり、日本文学史上においてももっと大きく賞賛されるべきものではないかなと思います。主人公はいわば作者の分身で、ジャンヌ・ダルクの伝記を書いた女流詩人クリスティヌ・ピザンの伝記を書こうと机に向かいますが、俗事に捕らわれたり、自分の中での目標を見失ったりしてなかなか先に進みません。そのへんの苦しみを、”知恵”を司る「文殊」と、”修行”を司る「普賢」を喩えにして表現した箇所が、まさに宝石のような輝きを含む名文で、何度も繰り返して読みました。「寒山拾得が文殊普賢の化身ならば、文殊の智慧などおよびもつかぬ下根劣機の身としては寒山の真似をするよりもまず拾得の真似で、風にうそぶき歌う前に箒をかついで地を払う修業こそふさわしかろう。しかし、かりにも拾得の箒を手にした以上、町角の屑を掻きあつめるだけではすまず、文殊の智慧の玉を世話に砕いて地上に撒き散らすことこそ本来の任務で、それなくしてはこの世の荘厳は期しがたく・・・」多少難解な文章ではありますが、繰り返し読むとじわりじわりと作者の言わんとすることが沁みてきます。この「普賢」のような作品が自分の人生で一つでも残すことができれば、物書きとして本望だなと思いました。

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田宮虎彦 「小さな赤い花」

子どもの頃に愛情が不足して育つことは、ある意味栄養の不足よりも深刻な問題かもしれません。世のお父さん方、お母さん方に愛情の不足が子どもの内面の形成にもたらす悲劇というものを知って頂く意味でも是非読んで欲しい作品がこの「小さな赤い花」です。悲しい話ですがこの作品の中で全編にわたって強く訴えられているのは子どもへの愛情の大切さです。これは作者の田宮虎彦自信がその生い立ちで痛烈に感じたことでもあります。この人は父親がどうもあまりいい人ではなかったらしく、愛情を受けなかったどころか、憎しみを受けて育っています。子どもの心ではどうして自分が憎まれるかわかりません。愛されたいのに憎まれるという辛さは大人でも耐え難いものです。ですがこういった成長期における辛い体験は、結局彼の創作における大きなテーマを生むという皮肉に到ります。自分の中にあった悲しみや怒りを形にして世に発表したものがこの作品と言ってもいいと思います。純粋無垢な主人公の少年は無邪気でやんちゃなごく普通の男の子ですが、粗暴な父親に一度も愛されたことがなく、母親と一緒に家を追い出され、母親の実家へと移るところから物語は始まります。少年は父親から離れることができ、母親といつも一緒にいることができるのでむしろ喜びに満ちています。しばらくは優しい母親との幸せな日々が続きますが、やがて母親は病気で亡くなります。そこからは完全に愛情に飢えた生活の始まりです。母親の優しい俤を胸に抱きつつも歩む方向を見失い、過ちを犯したりしながら日々を過ごしますが最後に彼を待っていたのはあまりに悲しい結末でした……。愛情というのは精神の栄養ですね。不足すれば心の病になり死を招くこともあります。人間なんてどんなに強くとも一人で生きていくのは無理ですよね。

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永井龍男 「黒い御飯」

永井龍男は1920年、16歳の頃に「活版屋の話」という作品を文芸誌『サンエス』に投稿し、それが菊池寛の目にとまり文壇への足がかりを得ます。そして創刊直後の「文芸春秋」誌上において、この「黒い御飯」を発表しました。それが19歳の頃です。これには本当に驚かされます。何に驚くかというと、この作品を読んで頂ければ分かります。とてもとても、19歳の作品とは思えません。もう長年小説を書いて飯を食ってきたベテランが、円熟期に代表作の一つとして残しました、と言われても全く不審に思わないような、非常に優れた作品です。どう考えてもまだ社会の厳しさを十分には知らない十代の若者の作品とは思えません。最初からこんな感じですから、作家永井龍男がいかにすごいかということが理解して頂けるのではないかと思います。この作品は自分の貧しかった幼少期の体験を参考に書かれているようです。主人公の少年が小学校に入った春の日の家庭の様子から物語は始まります。少年の家はひどく貧乏で、上の兄二人はろくろく学校も出してもらえず、早くから一家の生計を助ける労働力として日々汗を流しています。主人公の少年が学校に行けるというのは両親や兄たちの苦労のおかげであって、感謝の気持ちを持って必死に勉強しないといけないということを厳しい父親が少年に諭します。少年はそれを聞いて泣きますが、その涙は家族への感謝の涙ではありません。自分が貧乏な環境に生まれついたことへの悔しさからくる涙でした。家族の犠牲の上に少年の幸福があるというプレッシャーは幼い心を圧迫します。そのやるせない心情が実に明確に表現されており、読み手の心理の奥を突いてきます。小説とは人の心を表現するものだということをストレートに教えてくれるような作品です。読後にしみじみとなにかが残る名作です。

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田村泰次郎 「肉体の門」

田村泰次郎と言えば「肉体の門」と言われるほど彼の代表作とされる作品で、これまで何度も何度も映画化されてきました。この作品を映像化するとどうしても娼婦たちの裸体のシーンが多いのでポルノ映画のようになってしまうわけでして、ある意味そのへんをエサにしようという映画製作者側の下心も多少はあるのではないかと勘繰ってしまいますが、この作品のすごいところは田村泰次郎の発したいメッセージが思い切り盛り込まれているということなので、そのへんを理解しつつ作品を読むなり映画を見るなりして欲しいなと思うわけです。では彼が何を言わんとしているのか?それは彼のエッセイの中の一文を読んで頂ければすぐにわかります。「私は肉体の生理こそ、最も強烈にして唯一の人間的営為であることを骨身に徹して知った。人間のどんな考えも、肉体を基盤にしなければ頼りにならないものである。私は肉体から出たものではない一切の思想を、一切の考え方を絶対に信じない」ということなんですがお分かり頂けますでしょうか?いかなる思想もその前には肉体というものがある、人間の生理というものがある、ということを訴えたいわけですね。この「肉体の門」のストーリーはそれを分かりやすく物語りにしたと言ってもいいかと思います。戦後の荒廃した東京で、生きるための最後の手段を使ってたくましく生きる娼婦の群れに、ある日一人の荒くれ男が紛れ込みます。彼はやがて彼女らの頭目的立場になりますが、彼女たちはそれぞれ密かに彼を自分のものにしたいと思いつつ、彼女らの掟に縛られてそれを成しえません。そしてついに一人がその禁を破ったために、みんなでリンチにかけます……彼女らの中では野生が全てに先行し、肉体が主役となっています。理想も思想もありません。戦後の一時期に日本で見られたこういう光景は実は人間が思想という衣裳を脱ぎ捨てて原点に帰った時の姿とも言えます。そこを彼は表現したかったのだと思います。メッセージ性の非常に強い名作です。人間として、一度読んでおくべきものだと思います。

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火野葦平 「麦と兵隊」

火野葦平は北九州が生んだ偉大なる作家です。「糞尿譚」で第6回芥川賞を受賞したのを皮切りに、戦争体験をもとにした作品「麦と兵隊」「土と兵隊」「花と兵隊」などの作品によって、戦時中は押しも押されもせぬ人気作家になります。作品があまりに軍部に協力的であったということで、戦後は戦犯作家とまで言われ一時は公職追放という憂き目にあいますが、それが解除された後は再び返り咲いて人気作家の地位を取り戻します。ここで紹介する「麦と兵隊」は、昭和12年から日中戦争に応召した際の一兵隊の体験をリアルに描いた戦争記録文学です。えしぇ蔵は昭和43年生まれなので戦後23年も経過した後の世代ですから戦争がどういうものであったかは本や映画や体験者の話から想像するしかないわけですが、この作品を読めば出征した後どうなるのか?毎日どんな生活をしていたのか?戦闘中はどんな心理状態なのか?など、非常によくわかります。それぐらいリアルに描かれた作品です。圧巻は孫扞城というところで野営していた時に、敵の大逆襲を受けるシーンです。よほど凄まじい戦闘だったのでしょう、それをなんとか詳細に表現しようと彼は戦闘中もメモをとったりしています。非常に不利な状況になり、敵の迫撃砲弾が真上から落ちてくるようになってからは周りの仲間がバタバタと死んでいきます。直撃をくらえば即死です。増え続ける死傷者、間断のない銃撃、恐怖を伴う砲撃、到着が遅れる援軍……もはやこれまでかという場面が何回かあります。なんとか彼は負傷者を連れて脱出に成功し、後方に逃れます。このシーンはまったくハリウッドの戦争映画を見るよりもハラハラしました。そんな悲惨な目にあっても、戦闘が終わればまた生き残ったものは集められて、麦畑の中を進軍していきます。なるほどこれが戦争というものか、最前線の修羅場というものか、と強烈な刺激とともにその実態は心に刻まれました。非常に多くのことを学んだような気がしました。やがて日本から出征体験者がいなくなろうとしていますが、そんな時代においてはこういう文学が一つの戦争の証人となるのではないかと思います。

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大岡昇平 「花影」

女性を描くことが巧みな男性作家は決まって大家です。逆に言えば女性をうまく描けることが文豪と呼ばれるために必要な要素なのかもしれません。永井荷風しかり。太宰治しかり。そして忘れてはならないのが大岡昇平です。なぜそこまで深く女性の心理を理解できるのか、そしてそれを巧みに表現できるのか、不思議で仕方ないです。この作品などは、もし作家の名前を知らずに読んだとすれば、誰しもきっと女流作家の作品に違いないと思うことでしょう。それほど女性の思いを代弁している作品です。文章も美しく、どことなくしっとりした感じがあってこれまた女流作家のようです。ただストーリーを追うだけではもったいない名文です。ストーリーは戦後の人心荒廃し、世情混沌とした社会の中で寂しく生きる女性の儚い生涯を描いています。戦後の女性たちは、甲斐性のある男性に嫁いだ人は別ですが、そうでない人は生きる糧を得るために自らの美を売り物にしていくしか術がなく、多くの人は風俗業やバーなどの水商売にたずさわりました。バーで働いてるうちにお金持ちの”旦那”を見つけ、家を買ってもらったりお店を持たせてもらったりすれば成功したことになりますが、それはごく一部であり、ほとんどはそのまま年齢を重ね、自分の容姿の衰えにおびえながら細々と生きていくしかありません。主人公も何度か頼れそうな男性を見つけますが、毎回落胆させられます。多くの男性にただ翻弄されるだけで、ついには希望を見失います。追い求めた幸せをつかむことができずに最後の手段を選ぶ悲しい人生が淡々と描かれています。抑揚のない描き方が薄幸の女性の虚しい生き様をよりリアルに感じさせます。作品自体の価値が高いのはもちろん、こういう人生を送った女性が戦後は多かったということを知る上でもいい作品だと思います。男女問わず読んで頂きたいです。

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夏目漱石 「それから」

夏目漱石には前記三部作というのがあります。「三四郎」、「それから」、「門」がそれにあたります(ちなみに後期三部作は、「彼岸過迄」、「行人」、「こころ」)。この三つは登場人物も環境も全く異なるので、それぞれ別の作品として完全に成り立ちますが、続けて三つ読むとなんとなくつながっています。全く別物かな?いや、やっぱりなんか関係してるかな?という感じの、この微妙なつながり方がなんとも絶妙で、はっきりとした連作にしないところに天才の手腕を垣間見る気がします。ストーリーとしてどういう流れでつながっているかはネタバレになるので書きませんが、この三つの中で一番盛り上がるのがこの「それから」です。一番ドラマティックな展開があります。三つ読むのは面倒だという方は是非これだけは読んで下さい。働かなくても実家から貰うお金で悠々と生活できるお金持ちのぼんぼんが主人公です。退屈な日々の中、呑気に独自の屁理屈を振り回して過ごしています。一方、その親友はいい会社に就職し、美しい女性と結婚もして前途洋洋たる様子です。ところがやがてその親友の人生に狂いが生じます。会社を辞めて生活にも苦労し始め、奥さんとの間も冷えていきます。そんな二人を主人公は心配しますが、いつしかそれは奥さんへの想いに変わっていきます。精神的にも肉体的にも疲労を重ねていく奥さんを助けてあげたいという想いは熱烈な愛情へと変化し、主人公は懊悩します。何も知らない実家からは政略結婚的な縁談を勧められ、その断る理由にも悩みます。もし親友の奥さんを奪うなんてことをすれば実家から見放されて経済的援助を打ち切られるのは目に見えています。それでも我を通すのか?親友に奥さんへの愛を打ち明けることはできるのか?追いつめられた主人公の決断は如何に?そして最後はドラマティックな展開を残して作品は終わります(そして「門」を読むと、関係ない環境でありながらその後のことがなんとなくわかります)。初めて読んだ時は「どうするんだろう?どうなるんだろう?」とドキドキしながら読んだものです。個人的に前記三部作の中の一押しです。是非読んでみて下さい。

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林房雄 「獄中記」

「獄中記」というタイトルからもわかるように、刑務所での日常を綴った手紙形式の作品なんですが、おそらくほぼ100%林房雄の実体験だと思います。1926年、学生だった彼は「京都学連事件」で検挙され、最初の刑務所生活を経験します。その後プロレタリア作家となり、1930年に治安維持法違反で再び刑務所生活です。一旦下獄し、1934年にまた入ってます。この物語は2回目と3回目の刑務所生活の時の手紙をもとにして書かれています。非常に主張が強く、頑固な一面のある人なので妥協することを良しとしなかったからこういう体験をすることになったのかどうか、そのへんの真相はよくわかりませんが、そういう強さが彼の内面にあったことは、刑務所生活を無事に乗り越えるための大きな支えになったことは間違いないと思います。それはこの作品を読み進んで行くとよくわかります。日々の心情が奥さんに出した手紙の文章の中に克明に表現されています。時に怒りや悲しみを記した部分もありますが、概ね前向きに、多少楽天的に書かれており、刑務所の中という絶望的環境にありながらそんなに荒れていたふうには感じられません。孤独や束縛からストレスが生じ、悲しみにうち沈んだり、怒りに荒れ狂うというのが普通の服役者によく見られるパターンですが、彼は実に落ち着いた印象を受けます。淡々とした語り口で綴られています。読みながらしみじみ「この人は強い人だ」と感じました。えしぇ蔵だったらおそらくこんなに前向きに強い意志を持ち続けることはできないだろうと思います。林房雄のそういう人間的な強さには敬服せずにはいられません。この強さが文章においても行動においても彼を抜きん出た存在にしたことは間違いないと思います。三島由紀夫があこがれたというのもわかるような気がします。

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石川達三 「悪女の手記」

「蒼氓(そうぼう)」で1935年に名誉ある第1回芥川賞を受賞して華々しく文壇に登場した石川達三ですが、その内容はブラジル移民の悲しい現実を描いて社会に問題提起するものでした。その後も社会批判的な作品が多く、”ジャーナリスティック”という言葉がよく似合う作家になりました。そういった訳で社会派的なものは苦手だという人は石川達三を敬遠しがちですが、彼の作品の守備範囲はそれだけではありませんので誤解のないように。ここで紹介する話は全然そういった分野のものではありません。見方によっては私生児を蔑視する当時の社会に憤ったものというふうに捕らえられないこともないですが、あんまり難しく考えないで普通に読んで十分に面白い作品だと思います。ストーリーとしては単純な内容です。主人公は少し人より気が強いくらいで、どこにでもいそうな平凡な女性でした。彼女は私生児でしたが、持ち前の気丈さでそのことをコンプレックスとはせず、むしろ強く生きていくためのバネとします。妊娠させた男に捨てられて惨めな人生を送った母を見て、自分はそうはならないと強い意志を持って生きていきますが、所詮ままならぬ運命に翻弄され、結局は母と同じように好きな男に捨てられ、同じように私生児の母になります。ここから彼女の転落の人生が始まり、男というもの全体に対する復讐が始まります。お金を持っていそうな男をたぶらかし、利用し、離れていきます。次から次に。そして最期にやっと本当の幸せが見つかりそうになった時、運命の皮肉でまた最初と同じように捨てられます。ここで彼女は裏切った相手の男に対し、人生を台無しにされた男というもの全体に対し、そして幸せをつかむことができなかった自分自身に対し逆上し犯罪に至ります。この作品は最初に裏切った男へ送る手記という形で書かれていますが、非常に面白いので一気に読めました。難しく考える必要はありません。普通に楽しめる作品です。

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